神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)1241号 判決 1986年12月23日
原告
藤定尚巳
被告
小林茂
主文
一 被告は、原告に対し、金一八七七万九九八一円及びこれに対する昭和五八年一一月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その二を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告(請求の趣旨)
1 被告は原告に対し、金三一三六万五五三四円及びこれに対する昭和五八年一一月一三日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告(請求の趣旨に対する答弁)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原告(請求原因)
1 交通事故の発生
原告は次の交通事故(以下「本件事故」という)により受傷した。
(一) 日時 昭和五八年一一月一三日午後四時三五分ころ
(二) 場所 神戸市須磨区須磨浦通六丁目二番三四号先路上(以下「本件現場」という)
(三) 加害車両 普通乗用車(大阪五二ふ二六一九、以下「被告車両」という)
(四) 右運転者 被告小林茂
(五) 事故の態様 原告が、事故当日午後四時三五分ころ、自動二輪車(以下「原告車両」という)を運転し、時速約五〇キロメートルの速度で国道二号線を東進して本件現場にさしかかつたさい、前方約五〇メートルの歩道脇に停車している被告車両を認め、安全のため走行車線を第一車線から第二車線に変更したところ、被告が、突然右折転回して西行車線に合流しようとしたため、折から東進して来た原告車両左側部に被告車両左前部を衝突させた。
2 本件事故の結果
(一) 傷害の部位・程度
左膝関節内骨折、左膝十字靭帯断裂、頭部外傷Ⅰ型、右手関節捻挫、左肘打撲挫創、右示指末節骨々折。
尚、左膝関節の著しい機能障害が残り、昭和六〇年一月三一日、症状固定(自動車損害賠償保障法施行令別表第一〇級一一号に該当)。
(二) 治療日数
(1) 昭和五八年一一月一三日
本城・永井外科整形外科(入院)
(2) 同月一四日から同五九年二月二四日まで(一〇三日間)公文病院(入院)
(3) 同月二五日から同六〇年一月三一日まで(三三九日間)公文病院(通院)
3 責任事由
被告は、本件加害車両の保有者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告の被つた損害を賠償する責任がある。
4 損害
(一) 看護費 金七六万九四〇〇円
(二) 入院雑費 金一〇万四〇〇〇円
1000円/日×104(入院日数)=10万4000円
(三) 通院交通費 金一二万八八四〇円
(四) 休業損害 金二七九万四一九四円
(1) 事故当時の年収 金二六五万五九四〇円
原告は、本件事故の一ケ月余り前に訴外株式会社サンライフに就職し、調理師として働いていたが、右事故前月の収入は一八万九一五〇円、賞与予定額は、昭和五八年冬期が五万円、同五九年夏期が一七万四九八〇円、同年冬期が二一万一一六〇円であつたから、本件事故当時の原告の年収は金二六五万五九四〇円を下回ることはない。
(2) 要休業期間
昭和五八年一一月一三日(本件事故日)から同五九年一一月三〇日まで三八四日間
(3) 計算式
265万5940円÷365日×384日=279万4194円
(五) 受傷慰藉料 金二〇〇万円
(六) 逸失利益 金一九八一万四〇五〇円
原告は、昭和三五年八月一九日生まれの健康な男子で、高校卒業以来調理師として稼働してきたが、本件事故による前記後遺障害のため、従前通りの勤務ができなくなり、次のとおりの損害を受けた。
(1) 昭和五九年一二月一日から同六〇年八月一八日まで(二六一日間)の逸失利益 金一一二万六七三七円
<1> 右期間中の実日給 金二九五九円六〇銭
昭和五九年一二月一日から同六〇年五月三一日の間(一八二日間)に得た給与合計は金五三万八六五〇円であるから、右期間の平均日給は次の計算式のとおり金二九五九円六〇銭となる。
53万8650円÷182日≒2959.6円
<2> 計算式
(265万5940円÷365日-2959.6円)×261≒112万6737円
(2) 昭和六〇年八月一九日(原告の二五歳の誕生日)から同一〇二年八月一八日までの逸失利益 金一八六八万七三一三円
<1> 昭和五八年度賃金センサスによる二五歳男子平均年収 金三〇六万一〇〇〇円
<2> 期間 四三年(ホフマン係数二二・六一一)
<3> 労働能力喪失率 二七パーセント
<4> 計算式
306万1000円×22611×0.27=1868万7313円
(七) 後遺障害慰藉料 金五〇〇万円
(八) 住宅改修費 金五三万四〇〇〇円
左膝関節の機能が通常人の半分以下であるため、日常生活に支障があり、階段に手すりを設置した。更に、浴室・便所内設備を改修する必要がある。
(九) 弁護士費用 金三〇〇万円
(十) 損益相殺(内払金) 金二七七万八九五〇円
5 よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき金三一三六万五五三四円とこれに対する本件事故発生日である昭和五八年一一月一三日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告(請求原因に対する認否)
1 請求原因1の事実中、(五)を否認し、その余は認める。
2 同2の事実中、症状固定日については否認し、その余は不知。
3 同3の事実中、被告が車両の保有者である点は認め、その余は争う。
4 同4項の事実中、(十)は認め、その余は不知。
原告は、寿司職人であり、上肢ではない下肢の一関節の障害が、その稼働上如何ほどの支障を生ずるかは疑問である。加えて、原告は、現在、事故前の収入以上のものを得ているのであるから、原告には何らの逸失利益も生じていないと云うべきである。
もし然らずとしても、減収が生じていないということを重要な資料として、今後次第に稼働に馴致していくことをも考慮のうえ、逓減方式等によつて妥当な逸失利益が算定されるべきである。
三 被告(抗弁)
1 過失相殺
原告は、制限速度を超えた猛スピードで走行していたばかりでなく、前方を殆んど注視していなかつたため、被告が方向指示機を出し、かつ徐行して右折転回していたにもかかわらず、これに気づかず、慢然同一速度で進行し、事故を回避するなんらの措置も講じないまま衝突に至つたものである。
本件損害額の算定にあたつては原告の右過失も斟酌し、三〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。
2 弁済
被告は原告に対し、本件事故の損害金として、
(一) 看護費 金七六万九四〇〇円
(二) 交通費 金七万七一五〇円
(三) 休業損害その他 金二〇六万九一七五円
合計金二九一万五七二五円を支払つた。
四 原告(抗弁に対する認否)
1 抗弁1は争う。
2 抗弁2の事実は否認する。原告が被告から弁済を受けたのは、金二七七万八九五〇円である。
第三証拠
本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 交通事故の発生
請求原因1の事実中、(五)(事故の態様)を除く事実については当事者間に争いがない。
右争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第一号証の一ないし五、七、一一、原告本人尋問の結果並びにこれによつて真正に成立したものと認められる甲第一一号証を総合すれば、被告は、昭和五八年一一月一三日午後四時三五分ころ、国道二号線の神戸市須磨区須磨浦通六丁目付近を東進し、本件現場において西行車線への転回を行うため、一たん歩道脇(東行第一車線上)に停車し、続いて歩道の切れめに車両を後退させて車首を南に向け、第一車線上まで進行して再度停止した位置から、西行車線に右折合流すべく南進したこと、その際左方から来る車両の有無に気をとられ、右方道路の安全を十分に確認しなかつたため、折から東行車線を進行してきた原告運転の自動二輪車に自車左前部を衝突させたこと、原告車両は右衝突により対向車線に飛び出し、折から西進してきた訴外加藤賢二運転の普通乗用車右前部に衝突転倒したこと、をそれぞれ認めることができ、他に右認定を左右する証拠はない。
二 本件事故の結果
いずれも成立に争いのない甲第一号証の六、甲第三号証の一ないし五、甲第四号証、甲第一〇号証、乙第五号証、前掲甲第一一号証、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、本件事故により請求原因2(一)記載のとおりの傷害を受け、同2(二)記載のとおり治療を受けたが、左膝関節運動制限(伸展マイナス一五度、屈曲六〇度)等の後遺障害(自賠法施行令別表一〇級一一号に相当する。)を残し、昭和六〇年一月三一日に右症状は固定したことが認められる。
ところで、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告が治療を受けていた公文病院医師公文裕は、昭和五九年八月三一日、「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」を作成したところ、同診断書中には症状固定日として昭和五九年八月三一日との記載が存することが認められる。
しかし、原告本人尋問の結果によれば、右診断書は、原告が加入している傷害保険の後遺症認定を受けるため作成されたものであること、右傷害保険は事故後六か月で後遺症認定を行うこととなつていることが認められ、また前掲甲第三号証の五、第四号証によれば、前記公文医師は、右診断書作成後の昭和六〇年二月一五日に診断書を二通作成しているが、これらには症状固定日として昭和六〇年一月三一日と記載されていることが認められる。
右各事実によれば、前記乙第一号証中の症状固定日の記載は、傷害保険の後遺症認定を受けるための一時的判定にとどまり、最終的判定は、前掲甲第四号証の診断書によつて行なわれたものと推認されるから、前記乙第一号証中の記載は信用し難く、他に症状固定日を昭和六〇年一月三一日とする前記認定を覆すに足りる証拠はない。
三 責任事由
被告が、本件加害車両の保有者であることは当事者間に争いがないのであるから、被告は原告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。
四 損害
(一) 看護費 金七六万九四〇〇円
いずれも成立に争いのない甲第三号証の二ないし四、乙第二号証の一ないし六、乙第三号証の一ないし五、乙第四号証の一、二によれば、原告は本件事故による入院加療中の昭和五八年一一月一六日から同五九年二月一〇日までの間、付添看護を要したため職業的付添看護人を雇いその費用として合計金七六万九四〇〇円を要したことが認められ、右事実によれば、右費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(二) 入院雑費 金一〇万四〇〇〇円
原告が、本件事故による傷害のため、一〇四日間の入院加療を要したことは、前認定のとおりであり、右事実によれば、その間の入院雑費は、一日あたり金一〇〇〇円の割合で計算した合計金一〇万四〇〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
(三) 通院交通費等 金一二万九二三〇円
原告が、本件事故による受傷のため、昭和五八年一一月一三日から同五九年二月二四日まで入院し、同五九年二月二五日から同六〇年一月三一日まで合計三三九日間の通院をしたことは、前認定のとおりであるところ、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし一四、原告本人尋問の結果によれば、右入院の際の寝台自動車代金、右入院中の正月外泊に用したタクシー代金、右通院に要した交通費(山陽電車定期代金及びタクシー代金)の合計額は、金一二万九二三〇円であることが認められ、右通院交通費等は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(四) 休業損害 金二七八万六五五九円
原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第六号証の一、二、甲第一一号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、本件事故の一ケ月程前に訴外株式会社サンライフに就職し、本件事故当時、同所において調理師として稼働していたが、本件事故により、昭和五八年一一月一三日から同五九年一一月三〇日まで右会社を休業していたこと、そして、事故前月の収入は金一八万九一五〇円、賞与予定額は昭和五八年冬期が金五万円、同五九年夏期が金一七万四九八〇円、同年冬期が金二一万一一六〇円であつたこと、したがつて、事故当時の年収額は少くとも二六五万五九四〇円以上であつたことを認めることができる。
そして、前認定の原告の受傷内容及び治療経過を併せ考えると、原告は本件事故による前示受傷のために昭和五八年一一月一三日から同五九年一一月三〇日(前記休業期間最終日)まで合計三八四日間の休業を余儀なくされたものと認められるから、原告の本件事故による休業損害は、二七八万六五五九円となる。
(式)
2,655940÷366×384=2786559
(五) 慰藉料 金五〇〇万円
前認定の原告の傷害の部位・程度、入・通院期間、後遺症の部位・程度、本件事故の態様その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると本件事故によつて原告が被つた精神的苦痛を慰藉すべき金額としては、入・通院期間中のそれとして金一八〇万円、後遺症その他のそれとして金三二〇万円の合計金五〇〇万円をもつて相当であると認める。
(六) 後遺症逸失利益 金一六二一万四〇七五円
前認定のとおり、原告は、本件事故により、右膝関節の機能に後遺障害(自動車損害賠償保障法施行令別表第一〇級一一号相当)を残し、昭和六〇年一月三一日右症状は固定したものであるが、前掲原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和六〇年六月、長時間の立ち仕事が辛いこと等の理由で前記サンライフを退職し、同年七月には自宅付近の寿司屋に勤めたものの、出前ができないため約一ケ月で退職を余儀なくせられたこと、同年九月からは結婚式場の調理場で勤務して現在に至つているが、給与は前記サンライフより少ない月額一四万五〇〇〇円にとどまつていることが認められ、右事実のほか、原告の後遺障害の部位・程度、原告の年齢、職種等諸般の事情を考慮すると、右後遺症による労働能力喪失率は二七パーセント、労働能力の喪失期間は四三年であると認めるのが相当である。
そこで、前記認定の原告の収入、労働能力喪失率及び労働能力の喪失期間(ホフマン係数二二、六一〇五)を基礎にして逸失利益を計算すると、次の計算式のとおり金一六二一万四〇七五円(円未満切捨)となる。
(式)
2655940×0.27×226105=16214075
被告は、原告が事故前に比し収入の減少を来していないから逸失利益はないと主張し、仮に逸失利益があるとしても、原告は徐々に仕事に馴致していくから、その算定にあたつては逓減方式を用いるべき旨主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、原告は、前示後遺症によつて現に収入の減少を来たしているのであり、しかも、同一の職場に長期間勤務を続けることができるか否かも不安定な状況になつていることが認められるから、原告の逸失利益は現実化しているものというべきである。
また、原告が仕事に馴致していくというのも、被告の推測にすぎないのであつて、これを具体的に裏付ける証拠の提出がない以上、被告の主張を採用することはできない。
(七) 住宅改修費 金三二万四〇〇円
原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一、二、前掲甲第一一号証並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は前記後遺障害(左膝関節運動制限・左足が十分屈伸できない。)による日常生活の不便を避けるため、自宅の階段に手すりをつけ金二万円の出費をなし、風呂及び便所の改造を計画し、業者から合計金五一万四〇〇〇円の費用がかかる旨の見積書を受領していることが認められる。
右事実並びに前示後遺症の程度に照らすと、右住宅改修費の六割をもつて、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
(八) 以上(一)ないし(七)の合計は金二五三二万三六六四円となる。
(九) 過失相殺
前記一で認定した事実に、前掲甲第一号証の一ないし五、甲第一号証の七、一一、甲第一一号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件現場は、幅員約一五メートル、片側二車線、合計四車線の幹線道路(国道二号線)であり、また転回禁止区域ではないところ、被告は、本件現場において東行車線から西行車線への転回を行うため、東行第一車線上(歩道脇)で一旦停止し、続いて北西(歩道の切れ目)に後退して車首を南に向け、第一車線上まで進んで再度停止したのち、西行車線に右折合流するため時速約五キロメートルの速度で南進したこと、その際左方から来る車両の有無に気をとられ右方道路の安全確認をせず、また右折の方向指示器もだすことなく発進したこと、現場東行第二車線上にさしかかつた時点で右方約一一・五メートルの地点に原告自動二輪車を発見し、直ちにブレーキをかけたが間に合わず、被告車両左前部が原告車両に衝突したことが認められ、右事実によれば、被告には幹線道路において転回を行うにあたり右方安全確認懈怠の過失があり、これが本件事故の主たる原因であることは明らかである。
他方、前掲各証拠によれば、本件現場付近道路は、平坦で見通しのよい直線道路であり、その制限速度は五〇キロメートル毎時であるところ、原告は、現場第一車線を時速約五〇キロメートルの速度で東進中、前方約五〇メートルの地点に、前部を東からやや南に向け斜めに停止していた被告車両を認めたこと、そこで原告は、被告車両が発進するかも知れないと予測し、方向指示器をだしたうえ、直接顔を向けて右後方の安全確認をし、第二車線へ進路変更したが、その際格別の減速措置はとらなかつたこと、原告が車線変更を終えて後、顔を前方に向けると、被告車両が第二車線を塞ぐように進行してきていたため、急ブレーキを踏むとともに右にハンドルを切つたが間に合わず、衝突に至つたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、原告は被告車両を発見し、安全のため進路変更をしたものの、減速の措置はとらなかつたこと、しかも、最初に被告車両が歩道脇に止まつているのを発見してから第二車線を塞ぐ位置に出てくるまでの間、前方注視を怠り、被告車両の動向を全く確認していなかつたこと(前記認定事実によれば、被告車両は、いつたん歩道の切れ目に後退して車首を南に向け、第一車線上まで進行して再度停止し、さらに時速約五キロメートルで発進して第二車線上に出てきたことが認められるから、その間相当の時間を要したことが推認され、その間原告が前方を全く注視していなかつたのは、進路変更のための後方確認に多少の時間がかかることを考慮しても原告の落度と評価せざるを得ない。)が認められるから、本件の損害額の算定にあたつては原告の右過失を斟酌するのが相当である。
そして以上認定の被告及び原告の過失の内容、程度その他本件記録にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、過失割合は原告二〇パーセント、被告八〇パーセントと認めるのが相当である。
そして、前記四の(八)認定の損害額二五三二万三六六四円から、原告の右過失割合二〇パーセントを控除すれば、残損害は二〇二五万八九三一円となる。
(十) 損害のてん補
原告が、本件事故につき少なくとも二七七万八九五〇円の損害てん補を受けていることは当事者間に争いがない。
前項の損害額から右てん補金を控除すれば、残損害額は一七四七万九九八一円となる。
被告は、右てん補金を含め、合計金二九一万五七二五円を支払つていると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(十一) 弁護士費用 金一三〇万円
原告が弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、相当額の報酬を右代理人に支払う約束をしていることは弁論の全趣旨により認められるところ、本件訴訟の内容、経過、立証の難易、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害として被告に請求しうべき弁護士費用は金一三〇万円をもつて相当であると認める。
五 結論
以上の次第であるから、原告の被告に対する本訴請求は、損害賠償金一八七七万九九八一円及びこれに対する本件事故発生日である昭和五八年一一月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 広岡保 杉森研二 倉澤千巌)